REVIEWレビュー

米国SEPUP研修

 

              SEPUP Science Educator Enrichment Program

主                 Cincinnati SEPUP Center

Ms. Martha Brosz (Director)

Mr. Elvin Friesen (Assistant Director)

研修日程:2003年9月19日(金)〜9月26日(金) 6泊8日

(成田発9月19日、成田着9月26日)

研修会場              Cincinnati State Technical and Community College

3520 Central Parkway Cincinnati, Ohio 45233-2690

Tel: +1-513-569-1710

宿泊場所              The Vernon Manor Hotel

400 Oak Street, Cincinnati, Ohio 45219

Tel: +1-513-281-3300

参 加 者:藤澤隆次 千葉大学大学院教育学研究科M2

     平賀伸夫 愛知教育大学教育実践センター助教授

     長尾明美 放送大学大学院文化科学研究科M2

     黒河 恵 東京学芸大学大学院教育学研究科M1

     荻野正彦 埼玉大学大学院教育学研究科M1

 

SEPUPモジュール研修>

第1日(9月20日)

Thresholds and Toxicology 【閾(しきい)値と毒性】

米国の教員と一緒の研修では、”Thresholds and Toxicology”が行われました。閾値の決定はトレードオフ(trade-offs)の観点から与えられた情報の範囲で自分なりに許容可能な投与量を決定する・・・というものです。これは21世紀の社会的合意形成に必要な意思決定力養成の素養をはぐくむものとのとらえ方でいいと思います。

@     レモンソーダとレモンライムソーダという似通った2つの缶ジュースの外観・内容物等の比較にはじまり、

A     クエン酸水溶液を1/2→1/2に薄めていったものを9つのカップ分用意し味の比較(薄い方から味見し、どこまで水と変わらないか、どこから水と違うか、どこからまずいか!これらの線引きが人によってばらつきがあり、君がジュースをつくるとき、どこの値を取るかということを考える)、

B     クエン酸溶液を例のごとく10倍稀釈していき試薬で調べる、濃度の実験、

C     風邪薬の投与量による効果の有無・副作用・死亡人数のデータ比較、

D     ネズミを用いた「がまの油」(米国では、snake oilと言うらしい。)の生体実験のシミュレーション(ただしネズミのボディはただの水!)ここではlily juice(ユリジュース)の効用を調べるものでした。プリントのイラストも良くできています。ネズミのボディに見立てたボトルは、ネズミの格好をしていればなあと思いました。ミッキーマウスとか・・・もっとも製造コストの問題もあるけれどね。そして、人体実験に移すというときのリスク予測・・・といったように、ジュースの例のような同じところ、違うところが簡単に分けられる、簡単な線引きから、だんだんどこに線引きしたらよいか、単純にデータのみからでなく、他の理由も含めて線を引くような課題に取り組んでいくようになっています。

環境基準、保存料などの使用に関する基準など、現在様々な基準値が設けられていますし、私たちの生活に必要だと思います。日本では、今やJIS規格まで輸入していることですが、日本人は自分たちで自信を持って基準を決められないようです。

今回ルーブリックがついていることが目新しいことだと思います。日本でも喉から手がでるほど、欲しいものですよね。ルーブリックでは、多面的に考えられるほど、評価されます。つまり、閾値の決定の際に、たくさんの視点から考えるのですが、単に様々な視点に気付くだけではダメで、その視点をもち、関連ある証拠を集め、その信頼性を評価し、それぞれトレードオフの考えを用いて、周りの人間を納得させられる説明を持てる(図などのビジュアル的な表現も含めて)ということができてはじめて認められます。

★ルーブリック

全てのモジュールにルーブリックがついており、生徒とともに考えるようになっているようです。

簡単に書くと、次のような0〜4までのレベルがあります。

レベル0:何の反応も無い、全く関係ないことをしている。

レベル1:少なくとも1つの意見を言い、その理由を説明できる。

レベル2:少なくとも1つの意見を言い、いくつかの証拠を用いて理由を説明できる。

レベル3:少なくとも2つの意見を言い、その理由を証拠を用いて説明し、その意見を比較して、どうしてある意見より他の一つの選んだ意見のほうがよりベターか、トレードオフの考え方ができる。

レベル4:3つかそれ以上の意見をトレードオフして、意見を言える。

     授業で勉強していないが、関連している証拠を含めて考えられる。

     証拠の出所、質、量を見極める(評価する)ことができる。

     関係のある実験や調査を提案できる。                                 

     考えをクリアに伝えるために図を用いることができる。

ただ単に、たくさんの意見を単純に発言したり、視点に気付いたりするだけではなく、問題に関係のある証拠について根拠を持って提出し、あてずっぽうでない意見を理由とともに述べないと認められないようです。始めはあてずっぽうでも、そこからQuestioningで深めていくのでしょうけれど。

午後は、まずSEPUPトレーニングの前に日本のSEPUPの現状をプレゼンテーションしました。プレゼンテーション後の米国の先生方からの質問では、日本のリサイクルの現状に関するものが多数あり、米国でもこの環境問題に関する教員レベルでの関心の高さを垣間見ることができました。ただ現状は、ごみの分別には程遠い現状も知り、米国社会の矛盾も痛感しました。後日、ゴミの山にも行きました。アメリカは全てのゴミをそのまま埋め立てているということで、谷がすごく大きな山になっていました。ゴミの形は見えませんでしたが・・・。

 

 

 

 

第2日(9月21日)

Decision Making: Probability and Risk Assessment 【意思決定:確率とリスクアセスメント】

ここからは、日本人だけの研修なので、まず、”Decision Making: Probability and Risk Assessment”を研修しました。「Decision Making:・・・」はまさに今までのSEPUPにはない、少し新しい切り口だと思います。この考え方は、全てのモジュール、あるいは全ての教材、全ての生活に応用できるモジュール、つまり、SEPUPモジュールの全ての基本になるものだと思いました。今までのSEPUPモジュールとは、少し違います。確かにハンズオン(hands-on)も少なくダイレクトに選択理科の授業には使えないとは思いますが、各モジュールの基本になるものと捉えれば、このモジュールを基本にハンズオンを増やして、日本向けにアレンジすることは可能だと思います。ミドルスクールよりもっと低年齢層でやっておくといいかな?とも思います。化学的(理科的)実験はありません。「科学する」という点においては、わからないでもないのですが、果たして、これが「理科」?「科学」だけど「理科」じゃない?!あるのはサイコロを振ったり、コインを投げたり、主に確率の実験のみです。しかし、数学ではありません。確率を学ぶことが目的であれば数学でやればよいことですが、ここでは、様々なリスクを予測すること、それは、確率的に避けられないこと(ゼロリスクは無い)、それをできるだけ防ぐためにどうしたらよいか・・・といったことを学びます。始めは、パチンコ玉を穴に入れるのにどうやったら一番確率が高いか、その方法を考えさせ、そしてグループで話し合い、その方法を比較、分析するということをやりますが、高齢者のスポーツや病気、そして14歳以下の子どもが家庭で予測される危険性(おもちゃ、電気製品など)になどのリスクの予測、回避方法を考え、そこで、コインを投げて裏表の確率を取る実験を踏まえて(投げる回数が多くなると確立は1/2に近づくけれど、次に投げるコインの裏が出るか表が出るかは何回投げても確定できない)から、事故に遭う確率に繋げていく(ゼロリスクはない)。最後の方には、水疱瘡の予防接種に関する読物(死んでしまったりすることもあるなど)を読み、意思決定する。このモジュールは、独立した一つのモジュールですが、今までのSEPUPとは違い、サイコロやコイン投げで、確率の実験が印象に残りました。

 

第3日(9月22日)

Living with Plastics 【プラスチックと暮らし】

日本でやっていた古いバージョンは、プラスチックの性質ばかりに注目しすぎて、本来の目的に内容が達していない中途半端なつくりのところや、わかりにくかったデータ等がたくさんありましたが、データもわかりやすく目的に適したものになり、プラスチックだけでなくほかのマテリアルとの製造エネルギーコストやゴミの量のデータ等も載っているなど、いろいろな材料からできた製品で囲まれている実生活からプラスチックのあり方を考えられるものに近づいたように感じました。

最後の方が随分変わったように感じました。新しいバージョンでは、わかりにくいグラフも改良されていて、やっぱり米国でも問題になっていたんだ!

Investigating Wastewater: Solution and Pollution 【廃水調査:水溶液と汚染】

このモジュールも、新しくなっていました。工場排水の処理を考えさせるなど、ストーリー性をもたせてありましたが生徒たちにはそのほうがいいでしょう。中和滴定は、HClKOHに変わっていました。米国では、NaOHよりKOHの方が一般的だそうです。古いバージョンでは、CH3COOHとNaOHでしたから、日本的には、どっちもどっちと言うところでしょう。日本版は、HClNaOHに改訂できないかなあ。

Household Chemicals 【家庭内の化学物質】

これも、新しくなっていたが、それも評判が悪いようで、Dannaさんも勧めないとのことです。やっぱり、ちょっと見たところオイルを使うようで、やる価値はあるとは思いましたが、実際に授業で使っても評判は良くないでしょう。

Donnaさんは「Waste Disposal: Computers and the Environment」もお勧めということでした。他にもやってみたいモジュールがあったのですが、今回はもう時間がなく、来年再訪したら、挑戦したいと思います。

 

<学校視察>

第4日(9月23日)

Withrow High School

午前中の高校は、これから始業するところで、遅刻した生徒もいました。教師はエントランスで登校指導していました。まさに日本と同じ登校風景・・・授業参観は試験前ということで、1限の生物クラスでは、まず生徒が課題を自習して、OHPを使って先生が生化学に必要な化学知識の確認をやっていました。ちょっと試験対策の授業を見せられたようで、これなら日本でもお目にかかる光景だ・・・違うのは、生徒数が20人以下であることと、机の配置がちょっと新鮮だったかな。見ていて楽しかったのは生徒(男子11名)の挙動が、日本の某高校の生徒達と同じだったことです。放っておくと各自で世間話をはじめたり・・・レベル的にはそんなに高くはない学校のようですが暴力・躾等の点で問題があるのは、かれらのファミリーバックグラウンドのせいで、それを理由にはじめから、先入観をもってはいけないと思いました。子供は親を選べません。握手したり、名前を聞いてあげるととても嬉しそうでした。ただ、ビックリしたのは、セキュリティ(警備)が時々入り口のドアの開いた教室内に入ってくること。また、呼び出しの放送が授業中でも流れる・・・。これも日本では考えられないことです。

2限の米国史クラスでは先生が質問したり、説明したりしていましたが、教師主導の授業で、教師は良くしゃべる。連邦制になった経緯とメリットを税制・軍隊・経済効果多方面から、先生がわかりやすく説明していました。日本に比べてたしかに発言は活発ですが、よく手をあげる生徒は決まっていました。生徒の集中は、まあ30分がいいところか・・・黒板を使わないことを除けば、日本のかつての?!社会科の授業と変わらない!教室の机は、一人用の正面を向いて座る形態で、やはり20人以下。ちなみに黒板をほんのちょっと使いましたが、なんと・・・蛍光ペンで書いている・・・これどうやって消すの?

ところで、この学校の1限は、8:10〜9:05、2限は9:09〜10:04だった。5分、10分に揃っていないのは、日本と違う、覚えにくいと思うけどなあ。ちなみにこの方が時間を意識して守るとのことです。

Cincinnati Hills middle and high school

この中学では、参観の前にこの学校のランチルームで昼食をとりました。量は適量で、味もまあまあです。学年毎に時間をずらして昼食をとるようです。ランチルームでは、生徒が食事を選び、現金を支払うシステムのようです。日本の給食も見直すべきか・・・もっとも名古屋はここのような感じなのかな。NHKの「中学生日記」では、適当に教室で弁当食べてるけど、ランチルームに行ってる生徒と、教室で弁当食べている生徒という設定らしい。

午後は、SEPUPの授業です。残念ながら、トレイやドロッパーボトルを使ったところは見られませんでした。教師の質問がメインの授業でした。先生の質問に対し、生徒の手が良く挙がっているように思えます。興味深いのは、SEPUPのトレイなどをコンテナボックスに入れて、各班に配ってあることです。また、教室の構造は、流し付の実験台が教室の半分より後ろに配置され、教室の前半分は、多目的スペースのようにしてあることです。授業の後半、このスペースに生徒を集めて、テレビ画面を利用して授業を進めていました。ここでも黒板の代わりにOHPやテレビを利用していました。

次のクラスでは、通常のタマネギの細胞を観察する授業です。途中で退席することになりましたが、ここも教室構造が面白く、講義や討論をする場所の机は、四角い向かい合いの机で、観察実験をする机は、六角?の高い机でした。こちら側は、椅子を使わず、立ったまま実験できるように高い机が配置されていました。やはり、1つの大きな教室を目的によって使い分けられるように設計してあります。考えようによっては、2つの教室を目的に合わせて使用していることになります。ちょっと贅沢な作りをしていると思いました。

第5日(9月24日)

North Middle School

この日は、中学校で氷の溶かす実験を見た。夢中になって取り組む生徒、関心を示さない生徒、この辺も日本の教室と同じです。面白いのは、2時間続きの授業になっていないので途中に体育が入り、教科書を置いたまま生徒が移動してしまう。この時間は空いているので、勉強道具を置いたまま移動して、また戻ってくるとのことでした。この時間校長も参観?していました。

学校視察全体を通して、米国では、協同学習など、先進的な取り組みを行っているようにも感じていましたが、中等学校クラスではまだまだ普及していないようです。日本と同じか・・・ただし、どこも少人数教育体制はできています。現地の学校は、普通のクラスは日本とそんなに変わらないようです。底辺校は大変らしいですけれど・・・とにかく先生が授業中ずーっとよくしゃべるのには感心しました。米国では似たような考えや、似たような給料所得者が固まって生活し、その地域の学校によって随分カラーが違うようです。

 

SEPUP開発>

米国では、専属の開発メンバーが多数いる。また、SEPUP協力校も多く、ここ1、2年での複数のモジュール改訂が可能なのであろう。これが学校現場で利用されて、その意見がフィードバックされる。今回改訂されたモジュールも2、3年でまたマイナー・チェンジがあるかもしれない。

米国には、SEPUP以外にも、FOSS,STC,NSF,GEMS,PTL等がある。SEPUPは化学が主体だが、FOSS,STCは物理もあるようである。

<えとせとら>

全体を通して感じたことは、やはり社会構成が均一なシテイ・マネージャー型の地方自治をとっているバークレーのような地域でないと市民参加型の社会的合意形成は難しいということです。たとえば市長の権限のつよいシステムをとっているシカゴではSEPUPのうまれてくる背景はできづらかったとおもいます。意思決定には科学的思考力が必須ですからはじめから教育水準に差がありすぎても合意形成はできません。エルビンさんのお宅でも近郊のウラン施設(核兵器のための)からウランが土壌中の地下水を汚染する事例をうかがいましたが、町の人々はこの事実を知らなかったそうです。ここでもリスクコミュニケーション発祥の地でありながら・・・矛盾を感じました。日本は米国社会にくらべて社会構成はきわめて均一化していますからSEPUPをうまく根付かせれば21世紀をになう市民育成のための教育を考えたとき、米国より成功する可能性は高いと思います。

シンシナティ名産のチリビーンズや、学食、噂のポークリブの店、パリパリ美味しいベーグル屋さん、お馴染み大好きマック、中国料理、葡萄の蔓に覆われたドイツレストラン・・・いや〜、こう見ると、なんだか食べてばっかりのようですね。でも、本当に常におなかがいっぱいでしたけど・・・。

ホテルは、とても広くてきれいでした。キッチンもついていました。フリーで使えるパソコンもあり、日本語も文字化けせずに見ることができました。ただ、日本語変換ソフトは入っていないので、次回は、英語でそのまま報告書を打つ?!なんてしてしまったり・・・。

米国へ行けば、大リーグを見たい!でも、正直長旅で疲れました。シンシナティはもちろん米国へはもう二度と来ないかもしれないので、見ておくべきだったかなあ・・・。でもあまり悔いは残っていません。やっぱり来年は行こう!

Elvinさんの家で庭にある大きな風呂に入浴しました。石鹸を浴槽に入れるのは米国的だけど、日本人にとっては、大きな湯船に使って入浴するのは、とてもリラックスできます。来年も入りたい!

今回常々感じたのは、行ったメンバー全員がこの研修を作っているということです。このメンバーの行為、行動こそがSEPUPで学ぶべき、団体での合意形成であり、意思決定であるわけです。いろいろな人間がいて、いろいろな価値観があって、それで意思決定していくには科学だけでは解決できないし、本当に難しいことだと思います。アメリカSEPUPのホームページに公開されているリサーチには、SEPUPを学ぶことで、科学の限界を知るということもありました。科学は意思決定の際における一つのパーツに過ぎない。日本には宗教という価値観が不足していますが、先進国として国際的に活躍していく日本の一員として、いろいろな価値に対しての配慮、障害者、女性問題などなど視野を広くして、相手の存在の尊重と、思いやりとをもった自己主張ができるよう、考えていきたいなと思います。

とにかくどこへでも1日中コーディネートして連れて行っていただき、Elvinさんも、Marthaさんもさぞかしお疲れのことだと思いました。みな無事に帰ってこられてホント良かったです。一緒に行ったみなさん、お世話になりました。そして、研究会からのサポート、どうもありがとうございました。ここで得られたものは、決して無にしません。


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